忘却の整理学

忘却の整理学 外山慈比古

忘却と記憶は対立関係にあるのではなく共同のはたらきをしている

記憶は完全ではなく、記憶の視野に個人差のある盲点がいくつもある
完全記憶を人間に当てはめるのは誤り、部分的記憶、歪みを内蔵した記憶、選択的記憶が正常である。

選択的忘却は健全な精神にとって、記憶よりもはるかに重要
忘却は内助の功、忘却あっての理解であり記憶。整理とは余計なものを捨て、邪魔のものを取り除く、つまり忘却すること

コンピューターは完全記憶でき、人間の記憶力とは比べ物にならない。
人間のできる選択的忘却はコンピュータには逆立ちしてもできない。コンピューターのできない人間の活動には忘却の参与が絶対必要になる。

レクレーション、積極的に休む
頭を使いっぱなしにして、休ませてやらないと、あとから新しいことを吸収することができなくなる。頭に入れたことを適当に整理する時間、うまく忘れる時間がないと進歩するのは困難である。

大昔、中国の役所は、朝日が昇るとともに開始された。それで、”朝”廷というようになった。

朝の仕事の能率よさ。
朝飯前の仕事→朝の仕事は能率が良い、忘却により頭の整理もついている→空腹時は頭の活動が活発

三上
馬上、枕上、厠上
中国・北宋の政治家の言葉、文章を練るのに適切な場所
馬上 現代でいう乗り物に乗っているとき、車で通勤しているとき
枕上 朝の起床前の床の中
厠上(しじょう) トイレの中
経験上車で通勤中でよく考えが浮かぶ

三中
入浴中 お風呂で
道中 散歩など、自分の経験では夜のランニング中が考えをまとめるのに最適
集中・夢中 集中すると他のことは眼中になくなり、頭から消える。雑事を亡失することにより頭をきれいにすることで整理される。

カタルシス

悲劇をみると人は内にかかえている鬱積した情緒を解放し、そろにより精神を浄化する。
不要、有害な感情、情緒を排出することで、まさに忘却の作用であるといってよい

寺田寅彦 エッセイを書いた最初の科学者
寺田は依頼があればすぐに原稿を書き寝かせておく。風を入れることにより洗練されたものになる。よい推敲ができる。
時間をかけるのは忘却の働きを促し、不要、不順、余計なものを洗い落として、純化、昇華させる作用をもつ

すべてのものを学び取るなどということはそもそもできるわけがない。忘れて忘れきれなかったのがその人の得たものとなる。
継続は力なり。息抜きのない継続は時に危険なり。間欠的継続こそ真に力なりである。

よく遊びよく学べ。頭をきれいにした状態で学ぶようにする。
覚えたことは一度忘却の流れにさらすことにより、命ある知識となる。

休み休み考えるのはいちずに考えつめるのに優ることが少なくない。

多くのことを記憶し、思考するにはうまく忘れるのが絶対に必要。忘却に優れた頭は優れた頭脳。

すべては抵抗によって存在する。味方ばかりになったら滅びるほかない。
敵を避けるのは誤り。汝の敵を愛せよ、敵がいないのは常に危ない。

われわれは自分の頭を良くすることができないと思っている。しかし、頭の働きを良くすることは可能。頭を良くすることができなくても、頭の中をきれいに、さえたものにすることは不可能ではない。忘却はその最も有効な手段、方法である。

忘却の整理学

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