考える技術・書く技術 板坂元

考える技術・書く技術 (講談社現代新書 327)

日本から離れてアメリカに長く住んでいた、国文学者。1973年の著書、ウォーター・ゲート事件。オイルショックなどの時代背景。今までにもさまざまな論文の書き方の著書があるが、難しく、到底自分には出来ないものと思い知らされることが多い。もう少しマイルドにして、万人がモノを書けるように方法論を書いた


9 頭は筋肉のようなもので、使わなければ退化する

29 型把握 法則性の発見、抽象化・一般化する。要するに帰納的な考え方の基本のことであって、好奇心を好奇心で終わらせないためにには、日頃から要約、抽象化のトレーニングをする

30 関連付け 形を捉えることによって見つけた法則性を、それと関連する他の現象と結びつける練習をする

34 頭の善し悪しなどは常に変化する。自分の身辺にいくらでもトレーニングの手段は転がっている。それを見つけてはトレーニングをすることで老朽化を防ぐことが出来る

44 飛躍を防ぐ視点 論理を追って考えることを途中で放棄して急に結論に飛躍する思考の型。直感力に飛んだ日本人の陥りやすい傾向。これを防ぐためには、自分の他に、もうひとりの自分を見つめる自分という視点を作る必要がある

51 情報過多で、しかも処理する時間・空間が不足がちになるから、情報を取捨選択する能力がこれからの世の中を生きるためには重要になる

64 視点を自分から離れた所に設けることによって、対極から自分の考えや位置を考え直す機会を持つこと

91 カード取りのコツ あとで使う時のことを考えると動詞を使って短い文章にしておく

94 本や雑誌から書き抜くとき、ページ数を先に書く。元のページをもう一度探すという二度手間をしなければならないことがあるからだ(うっかり本を閉じて見つけるのに苦労する)

114 カードの山を分類して関連あるもののグループに分ける。カードを見直しながら、気のついたことを記入し、新たに思いついたことを追加する。そして、この作業がある程度成熟したら、カードをののた資料を全部おしやってカードから離れ、発酵させる

120 視点を多く持つことの大きな利点の一つは、思考を中断して、別なことに精神集中ができることにもある。運動なども発酵を促す

127 カードシステムやファイルシステムという知的な活動と、身体を動かしたり、関係ないことに集中したりする、情緒的な活動と身体的活動が互いに入り組んで反芻し調和する所で、創造的な考えが生まれる

132 「だきこめ」「なめられるな」「のせろ」説得の方法 グループ意識を作り上げる、読者、聴衆を敬服させる、飽きが来ないように、かつ適度に相手の集中をうながすように話に緩急のリズムを付ける

138 共通の敵を作り、被害者意識をかきたてて、「あなたもわたしも同じ立場だ」という気持ちをつくり上げることは、説得のためにも有効な手段となる

138 日本のジャーナリズムでは明治維新から反政府的な態度が伝統。日本の新聞は、明治維新に取り残された知識人、主として徳川幕府の武士の中で政府に入らなかった連中によって作られた。新聞の大部分ははじめから反政府の立場をとっていた

141 日本人は、事実マゾ的というか、被害者意識に快感を見出す傾向が強い。日本自身を批判するのは、遣唐使の頃からの伝統で、外にいつも頭の上がらない文化がある故の劣等感、それが裏返しになった悪口でもあり批判でもある

150 ハッタリ文献 数字化したものや、難しい表現などを拝借する文献

152 セットックのために数字を使うことは、情動のレベルで相手を信じさせる有効な手段

154 人間の頭は、普通15分くらい「真剣」に考えると、雑念が浮かんでくる、と言われる 中山正和「創造的思考の技術」

158 「売春と軍備は人類の歴史とともに古い必要悪ですよ」

182 文は長さを変え、文型を変えて単調にならないようにすることが大切

188 道具は使うものであって、道具につかわれてはつまらない。道具を使いこなすためには、その道具の構造や性能をよくわきまえて、ちょうど適合する場面でそれをつかわなければならない。どんな場面にでも使える万能の道具というものはない。また、道具というものは、使い方に習熟しなければ効果がない。道具の形を見ただけで、ばかにすることもないのである。おそろしく簡素の形の道具でも、つかいなれればまことに役に立つ。(梅棹忠夫「知的生産の技術」)

191 形容詞は、ものの状態・性質をあらわす言葉であるため、使い過ぎると文全体が静的な印象を強めることになる。作用や動きを示す動詞のほうが、全体を動的な感じすにする働きを持っている

201 自説、他説の境界は明確に。どのみちでも99.9%は他人の考えたもので、一人の人間の独創にかかるものはごく僅かなものにすぎない。他人のふんどしを借りることであっても恥ずかしいことではない。それをはっきりと示さないことのほうが、ずっと恥ずかしいことである。

207 今から100年くらいまえにヨーロッパのぶどうは病害のために枯死してしまった。そのとき、病菌につよい種に植え替えるために、アメリカからカルフォルニア産の野生の葡萄を輸入した。現在のヨーロッパのワインは、すべてアメリカ生まれの葡萄の子孫から作られているわけではない

70年代、まだインターネットなどなかった時代に情報過多ですでに情報の取捨選択の重要性を説いている。最近の情報整理と同じように、カード式の情報整理法について述べられている。カードはある程度の大きさで画一された形式にすると整理しやすいとしている。現代ではデジタルでその管理をすると良いが、走り書きだけになると後で見なおしたときに何がなんだか分からない。未来の自分は赤の他人であることを意識して、わかりやすく書く。出典なども明記したり、後から情報が加えられるようにしておくのが良い。ファイルメーカーなどが整理しやすいのではないかと考えた。実際に論文や講演する時も、「だきこめ」「なめられるな」「のせろ」という表現で読者や聞き手を説得する方法を述べている。これからの講演や日常会話でも実行可能なので普段から練習してみよう。